DXコラム

2024.03.25

保険代理店のDXにAIは活用できるのか?!

保険業界においてDXは重要な潮流となってから数年が経過していますが、AIの活用はまだまだ進んでいない現状があります。特に保険代理店においては、AIの活用基盤となるデータの量と質を確保しにくいことや、1社単独で研究開発を進めるには限界があるため、AIの導入の糸口がなかったといえます。しかし、最近ではChatGPTをはじめとした大規模言語モデルに基づく生成AIサービスが登場し、保険代理店でもAIを活用できる可能性が広がっていると弊社では考えています。

 

■顧客接点のデジタル化とAI

弊社では、2021年からの中期DX推進方針の一環として「顧客接点のデジタル化」を掲げています。顧客とWebを介してつながることで、顧客満足度の向上と業務効率化の両立を目指してさまざまな施策を進めてきました。しかし、両者は相反する部分も多く、すべての施策において成果を出すには至っていません。そこで、顧客接点のデジタル化において、AIの活用が両者の成立を促すことができるのではないかと考えています。保険代理店業界に限った話ではないですが、人材の採用や育成における課題ならびに顧客対応品質の標準化や向上に取り組むうえで、AIが大きな変革をもたらすことができるのではないか、そう考えています。

 

AIは本当に保険代理店のDXに貢献できるのか。本稿をつうじて一緒に考えていければと思います。

 

 

■進化した生成AIサービスの登場

2022年11月にChatGPTが公開され、わずか2ヵ月で全世界での利用者数が1億人を突破しました。私自身も触り始め、その回答の人間らしさに驚かされました(あまりにも真っ当な答えが返ってくるので裏でロジックが組まれているのではと勘繰って、下手な回答を引き出すために何度も何度も試した記憶があります)。日本語版のリリース後は、翻訳の精度にも感銘を受け、日本でも普及することを確信しました。そして、2023年4月には弊社内での業務利用に向けて始動しました。「まずはみんなで使ってみよう!」と提案したときの資料の1ページが以下です。

 

 

 

 

■保険代理店でもAIを活用できる理由

AIが個々人での利用に留まらず、保険代理店のDXに活用できると考えたのは以下の観点からです。

 

事前学習されたモデル
生成AIは、大規模なデータセットで事前に学習されており、その知識を利用して新しいコンテンツを生成できます。これにより、大量のデータを持たない我々のような保険代理店でも、AIの力を活用できるようになったこと。

 

クラウドベースのサービス
AI技術がクラウドサービスの形態で提供されるようになったことで、技術専門性の高いAIエンジンの開発や高価なインフラに投資することなく、AIサービスを利用できるようになったこと。

 

カスタマイズ可能なアプリケーション
弊社ではプラットフォームとしてAzure OpenAI Serviceを使用しているのですが、様々なモジュールが提供されており、特定の業務やニーズに合わせてカスタマイズ可能になっています。これにより、技術からのアプローチでなく、実現したいサービスを起点とした設計が可能となること。

 

オリジナルAIサービスへの拡張性
前述のカスタマイズ性とも関連しますが、事前学習モデルに対して自社のデータを追加してAIを訓練し、オリジナルのAIを”育成”していくことが可能です。これにより、自社ならではのサービスの開発が可能となること。

 

ChatGPTの登場により、AIは”民主化”されたといっても過言ではありません。

 

 

■弊社の活用状況と将来展望

弊社では、AI技術を活用して顧客対応の品質向上と業務効率化を目指しています。この技術は、顧客サービスの向上に寄与するだけでなく、社内業務の効率化にも大きな可能性を秘めていると考えています。

 

Phase 1: 個々人の業務利用
昨年4月、ChatGPTの無料版を利用者・用途を限定して社内で利用開始しました。無料版は、入力内容が学習データとして使われる可能性があるため、まずは触れてもらうのが目的でした。用途は主に一般的な情報の収集にとどまり、検索サイトとどう違うの?というような反応が多い状況でした。その後、Azure OpenAI Serviceを用いて独自の利用環境を構築し、10月からは全社員が利用可能となり、用途が大幅に拡大しました。メルマガの草稿作成、資料の構成案策定、議事録の要約など、機密性のある情報の取り扱いが可能になりました。私自身も、企画検討の”壁打ち”相手として使っているほか、本サイトの記事作成(イメージ画像も!)に日常的にAIを活用しています。

 

Phase 2: 社内ヘルプデスクの自動化(2024年度)
顧客対応業務へのAI活用の第一歩として考えているのが社内からの問合せ対応の自動化です。保険代理店に限らず、どの会社でもITヘルプデスクの対応に膨大な労力をかけているかと思います。弊社でも、2021年にITヘルプデスク業務においてルールベース型のチャットボットを導入し、問合せ件数の抑制に努めていますが、日常的なトラブルや相談に加え、新しいシステムの導入のたびに質問が増え(≒マニュアルを読んでくれない問題)、依然として問合せ対応に多くのリソースがとられています。AIを活用することで対話型の問題解決が可能になるため、正答精度が高まることが期待されます。
来月からは、独自データを学習させるAI環境を整え、訓練を開始します。ITヘルプデスク業務での検証を経て、管理部門系の社内ヘルプデスク対応に展開し、教育研修やトレーニングにも応用する計画です。

 

Phase 3: 顧客対応業務の自動化(2025年度~)
社内ヘルプデスクでの検証後、顧客対応へのAI活用を展開する構想です。住所変更などの事務手続きから始め、将来的には保険会社や金融庁とも協議しながら募集業務への応用も研究していきたいと考えています。技術進歩の速度に比べてスケジュールはやや慎重に設定し、顧客対応品質の確保を最優先に進めていく予定です。

 

 

■解決すべき課題は多い

しかし、AIを活用する上での課題は多くあります。データの質と量の確保、プライバシーとセキュリティの保護、法制度への適合、組織文化の変革など、多くのハードルがあります。
最初の試みであるITヘルプデスク業務においても、正確な回答をどのようなデータ・どれくらいのデータによって導き出すことができるのか、まだ明確ではありません。さらに、顧客対応においては、お客さまのプライバシーとセキュリティの確保や保険代理店として順守すべき法制度への対応をどのように実現していくのか、など大きな課題があります。そして何よりも、AIを使おうとうする我々保険代理店の働き手はもちろんのこと、お客さまにも受け入れてもらうための文化の醸成には時間もかかります。お客さまに対しては、テキストや音声に対応するだけでなく、アバターなどを起用して、より親近感をもっていただけるインターフェイスも必要になってくるでしょう。(このあたりの試行錯誤は楽しみでもあります。)

 

 

今後の取り組みの進捗については随時公開していくことを考えています。もし独自の取り組みをされている保険代理店様がいらっしゃればぜひ情報交換させていただければと思います。

 


“未来技術が身近な現実となる日も近い”

 

以上一助になれば幸いです。

 

(編集長・P太郎)

 

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