DXコラム
2025.02.03
受入れテストで失敗しないための勘どころ
こんにちは。編集部員の”まんでがんうどん”です。
前回は「システム移行作業で失敗しないための勘どころ」と題して、移行作業の注意点などをご紹介させていただきましたが、今回はシステム導入の最終段階でユーザ部門が行う【受入れテスト】について、失敗しないための注意点をご紹介いたします。
「受入れテスト」とは、ソフトウェアやシステムが依頼者/発注者の要求や期待に適合しているかを確認するためのテストです。これは、開発プロセスの最終段階で行われ、正式にリリースされる前に実施されます。
また、このテストは依頼者/発注者であるユーザ部門が主体となって行うこととなりますが、「受入れテストで何を行うのか?」など疑問を持たれている方も多いかと思います。「開発部門がテストしているから実施しなくてよいのでは?」「めんどくさいから形だけテストするか」といった考え方で安易に実施すると、リリース後にシステム障害や業務混乱を引き起こし、大きな損失に繋がる可能性があります。
そのため、「受入れテスト」の実施にあたってはテスト観点を明確にして計画を立てて、テストを進めることが非常に重要です。
■受入れテスト計画書には何を書くのか?
受入れテストでは、前述の通り「要求や期待に適合しているかを確認する」こととなりますが、テスト観点として大きく分類すると以下の通りとなります。特に重要な点としては、受入れテストを実施する際はシステムリリース後に使用する業務手順や帳票などのワークシートを利用することで、事務運用とシステム運用の整合性を確認することが大切です。
<テスト観点>
・通常業務運用の実行確認: 要求通り問題なく業務処理が対応可能であることを確認します
・トラブル発生時リカバリ運用の実行確認 : 異常データ混入など発生した場合のリカバリ運用が対応可能であることを確認します
・システムの操作性確認 : 画面の見やすさや操作性、ボタン押下時のレスポンスの妥当性などを確認する
・業務手順の有用性確認 : 当システムの処理内容や知識が浅い要員でも業務手順をもとに業務を実施できることを確認する
・現新比較確認 : 現行システムと新システムの出力結果を確認する
このテスト観点を計画的に作業を進められるよう受入れテスト計画書を作成します。
受入れテスト計画書の構成例としては以下の通りです。
<受入れテスト計画書の構成例>
1.目的
関係者間で共通認識が図れるよう受入れテストの目的を記載します。
2.テスト範囲
テストで確認する範囲を記載します。例えば、AシステムとBシステムに関する一連の処理をテスト範囲とするなど、テスト範囲を明確にします。
3.テスト観点
どのようなテストを行うのかを記載します。ここでは、前述の通り「通常業務運用の実行確認」や「トラブル発生時におけるリカバリ運用の実行確認」など、どのような観点で確認するかを記載します。また、具体的なテスト項目として別途「テスト仕様書」を作成し、確認ポイントを明確にすることをお勧めします。
4.テスト環境
テストで利用する環境を記載します。例えば、本番業務に影響の無いように受入れテスト用の個別環境やテストを実施するための場所など、テスト実施に必要な環境を記載します。
5.テストデータ
テスト観点に合わせたテストデータを事前に洗い出ししてテスト時に利用するデータを記載します。
6.受入れテスト開始判定基準
受入れテスト開始にあたっての条件を記載します。
7.受入れテスト合格判定基準
受入れテストの完了条件を記載します。
8.スケジュール
受入れテストの準備/実施スケジュールを記載します。特に限られた期間内で受入れテストを実施するため効率的なテスト運営ができるようにスケジュールを立てることが望ましいです。
9.体制
体制図や役割分担表などを記載します。
上記は、代表的な構成となりますので導入システムの規模などを考慮して、テスト計画の項目を選択し計画立案を行います。
■受入れテストで特に注意すべき点
上記の通り、受入れテスト計画書の構成例をご紹介いたしましたが、特に以下の項目に気を付けることで、より効果的かつ効率的に受入れテストを進めることができます。
(1)テスト観点(通常業務運用の実行確認)
システムの機能確認を行うことは大切ですが、より業務面からの視点で業務手順やワークシート等をインプットに一連の業務処理(例外対応処理含む)を行い、要求通り問題なく業務処理が対応可能であることを確認します。特に注意したい点として運用手順等との差異がないか、複数業務に跨る場合でも想定通りの業務運用が実施可能かなどを確認することが大切です。
【未実施時のリスク】
通常運用/例外対応等を想定したテストを実施していないことで、本番稼働後に操作方法/対応方法がわからず業務運用が回らない、当初想定した業務改善効果が得られないなど
(2)テスト観点(トラブル発生時におけるリカバリ運用の実行確認)
誤操作により異常データをエントリーした場合や外部システムから異常データが連携された場合などトラブル発生において想定したリカバリ運用が対応可能であることを確認します。このようなテスト観点は見逃しがちですが、実運用上では発生しうる事象ですので、キャンセル処理やデータ削除処理などでリカバリが可能であることを確認することが大切です。
【未実施時のリスク】
トラブル発生時を想定したテストを実施していないことで、スムーズなリカバリ対応ができず想定外の業務影響が発生するなど
(3)テストデータ
限られた実施期間内にテストを実施するため、受入れテストで必要なデータを事前に準備いたします。
例えば10パターンのテストを行う場合は、10件のテストデータを事前に用意しておくことでテスト当日の作業負荷を軽減することができます。また、現行システムと新システムの出力結果を確認するテスト(現新比較確認)を行う場合は、現行システムと同じデータを新システムにもセットするなどの準備が必要となります。
【未実施時のリスク】
テストデータの準備不足により、テスト期間内での確認ができないことや想定した確認結果が得られず、本番稼働後の不具合に繋がる可能性あり
(4)受入れテスト開始判定基準
受入れテストを開始するための条件を明確にします。例えば、「前工程でテストが未完了」「不具合事象が未解決」などの状態で、受入れテストを実施しても本来確認したい項目が確認できないなどテスト運営に大きな影響を及ぼします。このため開始条件を明確にしてテスト開始を判断することが必要です。
【未実施時のリスク】
前工程完了までに検知された不具合事象が解決されないままでのテスト実施や準備不足の状態でのテスト実施により、確認作業が難航しシステムリリースに影響を及ぼすなど
(5)受入れテスト合格判定基準
受入れテストの合格条件を明確に記載します。例えば、「テスト観点の確認項目が全て確認済み」などを記載するほか、受入れテストで検知された不具合事象が未解決であった場合の判断基準も記載することをお勧めします。テストの実施結果が合格条件に満たない場合は、そのままリリースしてもシステム障害や業務混乱を引き起こす可能性があるため、受入れテストの再実施や十分なリスク管理を行うことが望ましいです。
【未実施時のリスク】
新システムの品質が担保されていないままシステムリリースすることで、本番稼働後の不具合が多発し業務へ大きく影響を及ぼすなど
(6)体制
受入れテストの準備や実施における各員の役割分担や体制を明確にします。役割を明確にすることでスムーズなテスト運営を行うことが可能となります。例えば、上記(4)(5)の実施者/承認者を明確にすることで、曖昧な状態でのテスト開始/完了を抑止でき、品質が担保されたシステムをリリースすることが可能となります。また、テストデータやテスト環境の準備は開発部門の支援を必要とする場合がありますので、役割分担を明確にして準備を進めます。
【未実施時のリスク】
役割分担が不明確なまま作業をすすめることで、準備不足や重複作業が多発し受入れテストが予定通り実施できずシステムリリースに影響を及ぼすなど
■受入れテストをしっかり行うことで得られる効果
受入れテストは、システム導入作業における最終テストであり、そのままシステムリリースをしてよいかを判断する重要な工程です。
特にテスト観点やテスト開始判定/合格判定基準を明確にして、テスト実施に向けた計画を立てることで、効率的かつ効果的な受入れテストを実施することかできます。
また受入れテストを実施することで得られる効果は以下の通り。
・品質保証:テストの結果に基づいて、ソフトウェアやシステムの品質を保証することができます。
・問題の早期発見: 潜在的な問題やバグを早期に発見することができます。これにより、問題の修正や改善がより早く行われるため、品質向上に寄与します。
・リスクの軽減: 受け入れテストを通じてリスクを特定し、それに対する適切な対策を取ることで、リスクを軽減することができます。
以上です。今回は一般的な受入れテストのポイントをご紹介させていただきました。
実際の受入れテストでは、システムの規模や複雑さ、業界の特性などに応じて、より詳細な検討が必要となることもございます。またシステム規模が小さい場合は必要最小限の計画としてもよいかと思います。
現在システム導入を進められている方、これからシステム導入をご検討される方の一助になれば幸いです。
(編集者・まんでがんうどん)
【関連記事】
⇒システム移行作業で失敗しないための勘どころ
⇒テストケースを事前に洗い出すことの大切さ
お問合せ先
事例やコラムに関するご照会、案件に関するご相談やお見積は以下のフォームからお問合せください。