DXコラム

2024.11.18

システム開発内製化への挑戦【Vol.1】
~弊社における内製化の取組とその変遷(前編)~

こんにちは。編集長のP太郎です。

しばらく記事投稿をさぼっていましたが、編集チームのメンバーたちからの冷たい視線に耐え切れず久しぶりに筆をとりました(笑)。長文となりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

本日は、弊社が取り組んできているシステム開発の内製化について、試行錯誤の歴史も含めて以下の記事の連載でご紹介します。

<連載記事>
Vol.1 弊社における開発業務の内製化の取組とその変遷(前編)※本稿
    弊社がどのような観点で内製化を進めてきたか、直面した壁、またそれをどのように乗り越えたのかをご紹介します。
Vol.2 弊社における開発業務の内製化の取組とその変遷(後編)※12/2公開
    一定の成果を経て、新たな取組に進んだ先に直面した新たな課題についてご紹介します。
Vol.3 業務部署による開発の重要性とその進め方 ※12月中旬公開予定
    内製化に取り組む過程で業務部署による開発の重要性に気づき、どのように進めているかをご紹介します。

まず、システム開発業務の内製化とは、外部の開発会社に委託するのではなく、自社内でシステムを開発・運用することを指します。内製化は企業にとってコスト削減、対応スピードや柔軟性の向上、ノウハウの蓄積など多くのメリットをもたらしますが、IT部門に多くの人員を配置しにくい保険代理店にとってはなかなか難しい取組であると考えられます。本記事では、弊社がどのように内製化に取り組んできたか、その変遷について詳しくお話ししたいと思います。

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■ 開発業務の内製化に取り組むことにしたきっかけ

私がIT部門の責任者として着任したのは、まだDXが叫ばれるずっと前の2018年。それまでのIT部門の体制は、部長・課長が兼務で、専任者は社員1名と伊藤忠グループのシステム会社からの常駐者1名のみ。ヘルプデスク対応やサーバ運用などの運用保守業務が中心で、システム開発についてはすべて開発会社に”丸投げ”という状況が続いていました。

IT経費予算に目を向けると、まず目についたのが既存システムの運用保守費用が積みあがっていること。そして、サブシステム的な位置づけで多数開発していた保険代理店業務に付随する周辺業務用のエクセルマクロが、償却完了前に追加改修が繰り返し行われてきており、減価償却費が同様に積みあがっていること。この2点は予算運営上(IT投資の最適化を図る上で)の大きな課題として認識しました。

これらの費用を削減する方法を模索しましたが、すぐに削減できるものではなかったため、差し当たり、オンプレミスで導入していたサーバ群をクラウド移行することでランニングコストの削減に取り組んだのが最初のプロジェクトでした。

同じ年の9月、経産省から「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」が発表され、「世の中の技術革新やIT人材コストの高騰などをふまえると、企業は2025年までにDXに取り組む環境を整備しておかねばならない(”2025年の崖”)」、そのためには、「事業や業務の革新のために複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムにメスを入れるべし」というような指針が提示されました。この指針を、どのように解釈し当社の取組方針に反映させるかにはかなり悩みましたが、既存システムの運用保守費用や減価償却費がIT経費予算の半分を優に超えていた状況を打破しないといけない、と決意したきっかけとなりました。(私は、もともと事業開発畑でキャリアを積んできた人間のため、必ずしも企業の情報システムについては熟知しておらず、中長期のIT方針を考えるうえでは、経産省のDXレポートやIPAのDX白書から様々な示唆を得てきています。)

ランニングコストや運用保守工数を削減し、その分のリソースを業務効率化などの新たなプロジェクトの推進に再配分しなくてはならない、そのためには開発会社への依存度を下げる必要がある、それを実現するためには一定の内製開発体制を整備していく必要がある。これが当時打ち立てた中長期方針でした。


“経産省のDXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)からの抜粋”



■ 開発業務の内製化の初期の取組

大方針を打ち立てたものの、システムエンジニアを社内で抱えているわけではなく、また「保険代理店なのにシステムエンジニアを採用するなんてTooMuchじゃないの?」という声も根強く、その実現は前途多難でした。

そこで、まず取り組んだのはエクセルマクロ開発の「SESによる内製化」です。SESとはシステムエンジニアリングサービスの略で、SES提供会社のエンジニアに常駐してもらい、時間単位で費用を支払う形態です。外部委託ほどコストがかからず、また常駐してもらえるので物理的により近い場所で開発に取り組めるのでコミュニケーション効率がよく、外部委託と内製化のハイブリッド版といえます。

過去の外部委託によって開発費用や保守費用がかさんでいる事実と、当時の命題となっていた業務効率化が図れるであろう業務をリストアップし、費用対効果の定量的な仮説を立て、まずは3か月間の契約でトライアルすることに漕ぎつけました。

当初、取り組んだ案件としては、それまで外部委託していたマクロの改修作業を内製化することでした。具体的には、団体保険の更改管理マクロの年度バージョンアップや見積書作成マクロの機能強化、精算業務のチェックマクロの機能追加、生保帳簿作成ツールの出力帳票の改修などを行いました。

外部委託先からの見積と比較して、半分以下(案件によっては1/3)のコストで改修ができた結果となり、3か月満了時点でSES契約を継続することになりました。また、外部委託するほどのものではないとあきらめていた軽微な改修もSESだからこそ拾い上げることができ、業務部署の担当者にたいそう喜んでもらえたのを覚えています。



■ 開発業務の内製化の取組から見えてきた課題

エクセルマクロの改修を進めているなかで大きな気づきがありました。

それは、エクセル作業の効率化だけでは業務効率化に限界があることです。案件対応の過程でエクセルでの作業内容をヒアリングしていくと、一連の業務フローにおいてエクセル作業は一工程に過ぎず、その前後の工程においても非効率な手作業が発生していることが分かりました。エクセル作業は保険代理店業務の事務作業において大きな役割を担っていることは間違いないのですが、一連の業務フローに占める割合は時間換算で3~5割程度(弊社の過去の取組案件より)にしか過ぎず、残りの工程はエクセル以外で行われています。

業務フローの一例をあげると、保険会社が提供する保険代理店オンラインシステムからデータをダウンロードする、それをエクセルマクロに取り込んで加工(計算等)したうえで基幹システムに入力する入力したデータをリストでダウンロードする、さらに顧客毎のファイルを作成する、そして、受渡し用のオンラインストレージに顧客毎にアップロードする・・・。この一連の流れにおいて、多くの”エクセル外の作業”(上述の下線部)が発生しています。


“個別の手順を自動化するだけでは業務効率化の効果は限定的”


これらの作業を精査していくと、その多くはWebブラウザベースでの作業となっており、エクセルマクロでの操作の範囲外です。そこで注目したのがRPAという技術です。

RPAとは、Robotic Process Automationの略で、ロボットによる業務自動化の技術です。データ入力や処理、レポート作成などの繰り返し作業を自動化することが可能で、Webブラウザ上の操作もロボットに代替させることができるため、弊社でも活用の研究に着手しました。



■ 開発業務内製化Phase2の苦悩

RPAの研究はまずはツール選びからスタートしました。Automation Anyware、Blue Prismなど主力製品を調べると、初期導入費用が数百万円から1千万円以上するため導入を断念。安価な製品を探して初期導入費用が60万円(当時)というWinActorの導入を本格的に検討することにしました。

ゆくゆくは内製化、ということを考えていたものの、確実な検証を行いたかったため最初の案件は外部委託で行う方向で進めました。前述した、エクセル作業の前後にWebブラウザ上の作業が発生している業務フローを取り上げて、RPA構築ベンダーに見積をとったところ、なんと1百万円以上!年間償却費が20万円、月2万円分の業務時間の削減ができるか・・・時間単価3,000円として月6時間も削減できない・・・、そんな試算をして壁にぶちあたりました。

RPAは昔から存在していた技術(システム開発のテスト工程で使われていたよう)ですが、「働き方改革」で再注目されたのがちょうど2018年で、導入事例やその効果などがメディアで盛んに取り上げられていました。そのせいもあってか、小規模の開発会社でも”強気な見積”が多く、なかなか採算がとれる案件を見いだせずにいました。

こうなっては当初から内製化の道も検討しなくてはならないと腹を決め、WinActorでのトライアルを始めました。WinActorは非技術者でもロボットが作れる、というのが当時のウリでしたので、基本的な設定は問題なくできました。確かに簡単だ、これなら私にもできるかも、、、と進めて行くと、弊社の環境でうまく動作しない場面に直面、また、Webを検索しても公開されているノウハウも少なく、業務の合間に色々と試したもののなかなかブレークスルーができない状況が続き、あっという間にトライアル期間が終了しました。八方塞がりでした。



■ ブレークスルーと新たなチャレンジ

そんな時、伊藤忠商事の取組に目を向けると、Uipathという製品をちょうど導入したという情報が入りました。少し調べてみると、UipathはUI要素を取得するセレクターの機能(入力項目などを指定する機能)が充実しているとのこと。WinActorでは動作しなかった(当時、また当方のスキル・ノウハウの問題もあることをお含みおきください)ことが解決できるかも、という期待をもち、新たにトライアルを始めました。

うまく動作しなかった箇所で試してみるといとも簡単にUI要素が取得できるではないですか!また、トレーニングのための動画が充実していること、Web上に公開されているノウハウも多く、デベロッパーサイトも盛り上がっていたこと、さらには何かあったときは親会社の助けも借りられるのではないかという甘い期待も相まって、最終的に、内製開発を前提に、Uipathの導入を決めました。

しかしながら、Uipathの習得も簡単ではなかったのです。

やれることが多い反面、一部ではプラグラムの構文を記述せねばならず、一から勉強することを余儀なくされました。当時、伊藤忠グループのシステム会社が提供していた2日間のUipathの研修(7万円程度)に参加し、基礎を学びました。これでできるようになると思ったら大間違いでした。業務に内在する手順は多岐多様で、2日間の研修で網羅しているはずがありませんでした。展望が開けたように感じて舞い上がっていましたが、完全に甘く見ていました(笑)。

そこから地獄の日々に突入しました。前述のトレーニング動画(現在はUipathアカデミー)を活用して、平日夜と週末に自学(自己研鑽の位置づけのため労働基準には抵触しません!)を進めました。総計60時間の講座でしたが、非技術者の私はその倍の時間がかかり、1か月間をかけてスキルアップし、ようやく案件にとりかかれるようになりました。(開発の過程は本論から外れるため細かくはお伝えしませんが、デベロッパーサイトの先駆者の方々に大変お世話になったことを補記させていただきます。)


■ 得られた成果と学び

こうしてRPAの内製開発の目途も立ち、私のほうで試行錯誤をしながら何とか開発を進め、エクセルマクロの開発はSESで行うという役割分担でいくつかの案件に取り組んた結果、各手順の効率化に留まらず、業務フロー全体の効率化を図れるようになりました。エクセルマクロにRPAを組み合わせることで、業務時間の削減効果は、エクセルマクロ単体のときより2~3倍、当初の5倍程度、創出することができました。

肝心の内製化の成果としては、以下の点が挙げられます。

①開発費用が30-50%削減

 外部委託費用には開発会社の利益が乗っているので当然の結果ともいえますが、”追加要件を吸収するためのバッファ”を削減できたことも大きく貢献していると分析しています。

②開発効率が格段に向上

 社内で頻繁にコミュニケーションがとれるため、アジャイル型で開発を進めることができ、主に要件定義フェーズにおける業務部署の負担を大幅に削減することができました。加えて、厳密にはカウントしていませんが、打合せにかかる手間や時間も軽減できたと考えています。

③IT部門における業務知識の蓄積

 社内で開発することで、より詳細に業務手順に触れることになるため、徐々にではありますが、代理店業務の実務に対する理解度が向上しています。

最後に余談ですが、この取組を経て私が得た学びは、新しいことを始めるときには、リーダー自らが”産みの苦しみ”を乗り越えないといけない、という点です。これはどんな挑戦にも共通していると思います。

保険代理店という業態におけるシステム開発の内製化という”無謀な取組”においては、多くの課題に直面することは間違いないです。当初から経営陣の理解を得られることもないと考えたほうがよいでしょう。そこを、中長期的な視野と精緻な計画だけでなく、リーダー自ら忍耐と熱量をもってプロジェクトを推進していくことが唯一の成功の法則といっても過言ではありません。


>>後編に続く


※当初はUipathを導入していた弊社も、現在は機能強化され、ライセンス費用もより安価なMicrosoft Power Automateに切り替えています。

 

(編集長・P太郎) 

 

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